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<インタビュー>
エブリス・アルバレス (Eblis Alvarez)
MERIDIAN BROTHERS

《BOGOTA=TOKIO Conexión Vol. 3》
 2000年以降にコロンビアから頭角を現してきたグループの中でも、とりわけマッドかつ変幻自在な音楽性で異彩を放ち続けてきた鬼才マルチ奏者のエブリス・アルバレスが率いるメリディアン・ブラザーズ。自国とその周辺のラテン音楽はもちろんのこと、オルタナティヴ・ロック、広義の電子音楽、室内楽なども通過した上でアルバムごとにアプローチを変えながら放たれてきたトロピカル・アヴァン・ポップは、偏執狂的なまでの音の細部へのこだわりと、それと相反するような脱力的なユーモア感覚が同居したもの。初期のラテン・プレイボーイズとトン・ゼー、日本のオオルタイチがコロンビアで合流したかのような境地は、リズム・ボックスやシンセ類を多用しながら彼らとしては最もストレートにクンビアに取り組んだ最新作『CUMBIA SIGLO XXI(21世紀クンビア)』でも健在だ。今回はそのリリースを記念して、中心人物のエブリスに改めて基盤となる音楽観やこれまでの歩み、そして音のマッド・サイエンティストぶりを濃密に発揮した最新作について幅広く語ってもらった。

インタビュー&文=吉本秀純 : Hidesumi YOSHIMOTO
翻訳=伊藤”モフォンゴ”嘉章 Traduccion : Yoshiaki “Mofongo” ITO

— 最初にエブリスさんの音楽的なバックボーンを改めて聞かせてください。室内楽的な管楽器の使い方も特徴的だった初期のメリディアン・ブラザーズや、それ以前にやっていたよりアヴァンギャルド志向の強かったエンサンブレ・ポリフォニコ・バジェナートからそうでしたが、あなたのつくる音楽はコロンビアやラテン圏の音楽はもちろんのこと、オルタナティヴ・ロック、現代音楽、テクノ~エレクトロニカ、またはレジデンツやブラジルのトン・ゼーなど…かなり様々な音楽からの影響を感じさせます。
 コロンビアを含むラテン音楽と、それ以外の両面で教えてもらえるとありがたいです。

■エブリス・アルバレス : 好奇心に従って音楽をやってきました。自分が聴いていた音楽への好奇心ではなく、自分が演奏できることへの好奇心という意味です。まだ幼い頃ドラムを始め、のちにギターを始めました。好奇心の衝動に従い、クラシック、ロック、ジャズなど様々なジャンルの様々な楽器を勉強しました。そしてクラシックのギターを学ぶために音楽学校に入学し、現代音楽の作曲を専攻し卒業しました。
同時に、友達の影響で様々なジャンルの音楽の知識も吸収してきました。例えばエンサンブレ・ポリフォニコ・バジェナートは、友人のハビエル・モラレスのアイディアです。僕が育った90年代にはまだ一般的ではありませんでしたが、彼はトロピカル音楽を取り入れようとした先駆者でした。
2000年前後には、より多くの音楽を聴き、その文化的内容を分析するようになりました。そこで様々な音源、特にラテンやアフリカのものを真似てみようという発想が生まれました。
つまりいろいろなことを試してみたいという好奇心と、一つのことに集中しなかったことで、あらゆる種類の色々な実験を行うことになったんです。それは文化的要素の相互作用といった面から、音色のテクニック、さらには演劇的要素までにわたります。

— 2015年にメキシコで日本の音楽誌『ラティーナ』のために応じたインタビューを読むと(おそらくメリディアン・ブラザーズに取材した唯一の日本語記事だと思います)、椎名林檎も聴くと答えていたのが意外でした。日本の音楽家のオオルタイチはメリディアン・ブラザーズとかなり近い音楽性を示しているように以前から思っていましたが、ご存じですか?
 また、最近では民謡クルセイダーズがコロンビアでフレンテ・クンビエロと共演しましたが、エブリスさんがお聴きになった感想なども聞かせてもらえれば。

■エブリス・アルバレス : はい、その頃椎名林檎さんが大好きで今でも聴いていますし、ツジコノリコさんも大好きです。オオルタイチさんは聴いていませんでしたが、YouTubeで聴いてみました。最高ですね!
民謡クルセイダーズはピュアなファンタジーのバンドだと思います。ほんとうに新次元の美しさで、自分が到達できないところにいる。彼らのアルバムも素晴らしいですね。彼らと一緒のフレンテ・クンビエロの新譜ももちろん大好きです。今回のシングルのマスタリングは僕自身が僕のスタジオでやったんですよ。

— そもそもメリディアン・ブラザーズは、最初はどういった音楽的方向性でやっていこうと始まったのですか?
個人的には、まだSoundwayから作品を発表する前に、大阪にあるNewtone RecordsにCDを取り寄せてもらって聴いた09年作『Meridian Brothers VI』が、コロンビアにこんな音楽を奏でる人たちがいるのか!と衝撃的でした。

■エブリス・アルバレス : 最初の質問でもお答えしましたが、メリディアン・ブラザーズのモチベーションは好奇心と関係していて、固定されたなにかに焦点を当てておらず、そのため色々な実験をしてみることに繋がっています。
プロジェクトを始めた20年ほど前は、今のようなインターネット上の詳しい情報などなくて、いままで聴いたことのない「変な」音と出会いたい、というのが自分の無邪気な動機でした。そして何度もトライしてみたのです。うまくいくかはわかりませんでしたが。

— メリディアン・ブラザーズが活動を始めた頃(2000年代前半)は、世界的にクンビアへの注目が高まりはじめた時期でした。日本でも、アルゼンチンから世界中のクラブ・シーンに飛び火したデジタル・クンビアや、コロンビア発ならボンバ・エステーレオやペルネットなどの新世代の音、またコロンビアに移住したクアンティックの一連のプロジェクトなどを通して広く聴かれるようになりましたが、メリディアン・ブラザーズはその中でもとりわけ特異な音楽性を示す存在でした。エブリスさんは同時代のそうした動きをどう受け止め、自身のメリディアン・ブラザーズの音に反映していましたか?

■エブリス・アルバレス : ええ、これらの動きをしっかりと追っていました。それまでの取り組んできた「いままでにない、変な」音をどうつくるか、ということとコロンビアやラテンアメリカでの動きを組み合わせてみようとしました。そしてこれらの同じ動きの中に自分のアイデンティティを見つけようとしたのです。それは今も続いています。

— これまでにメリディアン・ブラザーズが発表してきたアルバムを振り返ってみると、1枚ごとにかなり異なる音楽的アプローチを取っている点も特徴的です。サルサ色も強かったひとり多重録音による『Desesperanza』(12年)、メレンゲやレゲトンまでも取り入れつつマッドネスを全方位的に爆発させた『Salvadora Robot』(14年)、シンセ類を多用して60~70年代の南米のオルガン奏者の作品を現代化したような『Los Suicidas』(15年)、アコースティックな音づくりで新しい方向性を示した『¿Dónde estás María?』(17年)と、2010年代にSoundwayから発表してきた4枚のアルバムでの変遷についてエブリスさんが考えていたことを聞かせてください。

■エブリス・アルバレス : 他の人がつくっている音楽に興味を持ちはじめたのは、’00年の中頃以降でした。それ以前はほんとに興味がなく、ひとり独学で様々な楽器の技術や現代音楽の楽譜の研究などに集中していました。
2010年の終わり頃になって本気でいろいろな音楽を収集しはじめました。そして数年後には、徹底的に色々な角度から分類するようになりました。国別、ジャンル別、楽器別などにです。
このことで新しい展望が開けました。この分類別に実験してみたのです。なので僕の近年のアルバムには必ずテーマ、音楽文化や背景があります。今までそんな風にやってきました。

— アルバムのアートワークにはいつも、子供や古い時代(中世~近代)のキリスト教を連想させる聖母、動物などのイラスト、写真、置物などが使われているのが印象的なのですが、これの意味するところがあれば教えてもらえませんか?

■エブリス・アルバレス : そうですね、常に中世のイラストや古代の色々なシンボルなどには興味を持っています。
これは無意識のうちにレコード・ジャケットのアートワークの見方に刷り込まれていると思います。中世美術の体系的な知識はありませんし、実際、美術全般の知識は持っていません。でも象徴論や記号論にはとても興味を持っています。

— そして、ニューアルバム『Cumbia siglo XX』では、前作からまたもや一転して、複数のドラム・マシンやシンセ、ギターなどをメインに使いながら曲タイトルからも明らかなように全面的にクンビアに取り組んだ作品です。メリディアン・ブラザーズとして、ここまで真っ向からクンビアに取り組んだ作品は過去になかったと思いますが。

■エブリス・アルバレス : 僕と電子音楽との付き合いはちょっと変わってます。いつも距離を置いていて、90年代後半には偏見もありました。その頃はシンセサイザーを拒否していたんです。
その一方で、科学としての音の合成に興味を持つようになり、そしてハマってしましました。音の合成は電気と振動を使った錬金術の一種です。合成にこだわりまくり、いろいろな角度からアプローチしてきました。コンピュータのプログラミング、様々なソフト、アナログ合成や電子機器と電子楽器自体の構築といった面からです。
でも、エレクトロニック・ミュージックの文化を持っていなかった僕は、この知識をどのように応用したらいいのか分からないまま、何年もの間(そして今もそうですが)ただただ夢中になっていました。
ここ15年もの間、エレクトロニカ・ミュージックの作品をつくろうとしていましたが、満足するものはできなかったのです。この『CUMBIA SIGLO XXI』をつくるまでは。

— 音楽的にはタイトルやジャケット画でも引用されているクンビア・シグロXX、グループ・フォルクロリコ、2000ボルティオスといったコロンビアのグループが80年代に展開していた音から刺激を受け、それを現代的な手法で発展させたのが今作とのことですが、エブリスさんにとってそれらの音のどういった点が興味深かったのかをより具体的に聞かせてください。
また、このあたりのグループは、現地のクンビア・シーンではどういった位置付けや評価をされているのでしょうか?

■エブリス・アルバレス : 2000ボルティオス、ブランド(グループ・フォルクロリコのリーダー)、マチューカ(80年代に冒険的なリリースを重ねたバランキージャのレーベル)などについてですが、あの時代、スタイル、場所やミュージシャンたちは、僕にとっては理想的な環境と条件でした。そこでは創造性が発揮され、未知のものや人間の音楽へのスピリットの影の面とも出会うものでした。それこそが芸術がつくるものだと思います。
シンプルに言って、これらのグループは、伝統的な要素を取り出し、グローバルなコミュニケーション・システムの様々なものと合わせ、新しい未知のなにかに変換させていました。これらの音はこの時代のコロンビアで(そして今もですが)とても新しいもので、これらのジャンルに具体的な名前がありません。僕は「ファンク・タンボレーロ」と呼んでいますが、別の呼び方もあり得るので、名前をつけない方がいいですね。「あれ、あれだよ」って呼ばれていますから。この「あれ」はポテンシャルを失い始めているシーンにおいてそのエネルギーを透過させはじめていると思います。最近のクンビアのように。
新作『クンビア・シグロXXI』ではまさにそれを行っています。

クンビアはここ15年でグローバル化しました。地元で評判で、超有名で評価されているいくつものバンドがいますし、インディーズのグループなどもいます。メリディアン・ブラザーズもまずまずの数のファンのグループがあって活動をフォローしてくれています。

— リズムやシンセの音色などを聴いていると、ヴィンテージな機材とテクノ以降な手法や音づくりが混在したかなり独特なサウンドになっています。今回のアルバムはほぼひとりでつくったように推測しますが、音つくりや使用機材などにおいてこだわった点は?

■エブリス・アルバレス : 先ほどもお答えしましたが、数年前からシンセサイザーとその可能性に夢中になっています。このアルバムは本当に色々な技術を使っています。典型的なリズム・マシンのようにエレクトロニカを象徴する伝統的なサウンドから、ハードやソフトでゼロからつくられたサウンドまで、色々です。電子機器でつくれるバイナリの細分化とは異なる、シークエンスのアルゴリズム・システムとか、僕が自分で見つけた方法などすべてが注ぎ込まれています。
基本的なコンセプトの方向として、アルバムタイトルの元となったコロンビアのバンド、クンビア・シグロXXだったらやっただろうと思うことをイメージしながら、トロピカルなスタイルを再現しています。
加えて抽象的なインスピレーションと、いろいろな実験をしたいという気持ちが、このアルバムをつくる上での指針になったと思います。

— ホームページのブログを読むと、歌詞の内容は共産主義者の旗やライフル、肖像画などが飾られた部屋の中で、9名の女性ダンサーが携帯電話を見たり、タバコを吸ったり、MP3プレイヤーで音楽を聴いたりと別々のことをしているジャケットのイラストに象徴されているようですが、主にどのようなことをテーマに歌っているのかを説明してもらえませんか?

■エブリス・アルバレス : このアルバムでは、ほとんどの曲で人間をコントロールする社会的なイデオロギーを取り上げています。
虚構的で矛盾したイデオロギーが作られていることについて深く考えました。そのイデオロギーは現実社会で僕たちを混乱に直面させまた混乱をつくりだしています。こんな風に僕たちは権力者に支配されているのです。
通信技術システムへの批判も込めました。そこでは文明の歴史として我々が知っているこの自由な人間社会が終わるかもしれないと懸念しています。
このようなインスピレーションをもとに歌詞を書きました。これらのイデオロギーに関する具体的なことに基づいて様々な状況を描いたのです。
慣習的な性格を持つある種の祈りのことや、友情に捧げた主題もあります。

— ブログではグローバリゼーション化が進んだ世界の中で消費されてきたクンビアについて触れられていたのが印象的でしたが、クンビアの現状について思うところを改めて聞かせてください。

■エブリス・アルバレス : そうですね、クンビアはコロンビアで元々もっていた意味合いとは違った、国際的な意味合いを持っていると思います。コロンビアではクンビアは他のリズムと混ざり合っていて、一般的なコスモポリタンな環境で見られるような中央集権的なヒエラルキーを持ってきませんでした。
クンビアは、ラテン系の人たちにとってのある独自の表現として見られ始めています。グローバル・パワーの前での我々のシンボルであるかのようにです。
これはしばらくは人々に繁栄をもたらすように思われますが、長い目では良くない結果をもたらすと思います。
その結果のいくつかとしては、自身を表す文化を壊してしまうと思うのです。 それは代替となる様々な源泉や、不確実性や、秘密や未知のこと、歴史を強固なものにしたり再評価したりすること、また未だに続く大きな力による植民地化や征服、例えば今日の国境を越えた経済の力とかの面からの文化への影響です。
ある文化を持つ歴史を固定化し、絶対的な「記憶」のバージョンとして取り出すようなことは、それを商品化し、商標化し、標語化してしまいます。そして文化の要素は新たな発展を生みだす能力を失ってしまう。世紀を超えて自分自身をコピーし続け、60年近くも同じパターンを再生産し続けている欧米のロックになにが起こったかを見てみるといいでしょう。

— 最後に、メリディアン・ブラザーズやエブリスさんの今後の動きについて、すでに動いていることや次に取り組みたいことなどがあれば教えてください。

■エブリス・アルバレス : 現在、『CUMBIA SIGLO XXI』の”弟分”を仕上げているところです。”最後の子午線 (メリディアン)”と呼ばれるプロジェクトで、『CUMBIA SIGLO XXI』での技術の多く使い、音とコンセプトの両面でより過激にした非商業的なバージョンです。

インタビューに感謝します!

Por Hidesumi YOSHIMOTO
Traduccion : Yoshiaki ITO
Oct. 2020

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